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パフォーマンストレーニングの理論と実践

Vol.7 パフォーマンスを高めるための原理原則
ー AffordanceとSelf-Organization ー

パフォーマンスを向上するためには、
「環境」と相互作用する能力が必要になります。

環境には”affordance(アフォーダンス)”が存在します。

アフォーダンスとは、
英語の動詞 「afford(アフォード):与える、提供する」を名詞化した James Jerome Gibson による造語です。
アフォーダンスとは、「環境が動物に与え、提供している意味や価値」と定義されています。

「動作」とは「環境」が反映されたものです。
つまり、環境の中に現れるアフォーダンスへの反応として動作は自然に出現するのです。

故に、私たちは「環境が人間に与える意味とは何か?」を理解しなければなりません。

アフォーダンスとは、知覚者の欲求や動機、あるいは主観が構成するものではなく、
環境の中に実在する「行為の資源」を指します。

環境の中に出現するアフォーダンスや、身体やタスクに由来する制限・制約の中で、
私たちの動作は巧みさを発達させていくのです。

1つ目の例として、
「平均台の上をバランスを取りながら歩く」というトレーニングを行なっていたとしましょう。
地面から少し高くなっている程度の平均台の上を歩くことは、少し練習をすれば誰にでもできるようになるでしょう。

平均台は歩くことをアフォードしています。
平均台には歩くアフォーダンスがあります。

しかし、これがビルの屋上の縁にある細い足場であればどうでしょう。
足場の横幅が平均台と全く同じであっても、多くの人が「歩けない」と知覚するのではないでしょうか?

ただし鳶職人のように、高所での細い足場を歩き慣れている特別な能力を持っている人であれば、
「歩ける」と知覚するはずです。
つまり、どんなに高いところのビルの縁の足場であっても、歩くことをアフォードするはずです。

平均台や狭い足場でなくても、紙でも棒でも何でも良いのです。
紙や棒を、見たり、触ったり、叩いてみたり、そこには多くのアフォーダンスが発見できます。

同じものを見ていても、人によって異なるアフォーダンスが知覚されます。
環境の中の全てのものに、アフォーダンスは無限に存在しているのです。

2つ目の例として、
高いところにある足場が悪く古い吊り橋を
体重50kgのAさんと、体重100kgのBさんが歩くとしましょう。

体重50kgのAさんは「自分には渡れる吊り橋だ」と感じました。
体重100kgのBさんは「自分には渡れない吊り橋だ」と感じました。

そこで、体重50kgのAさんに50kgの重りを背負ってもらうことで、Aさんの体重は重り付きで100kgになりました。
その瞬間に「渡れる」と思っていた吊り橋が「渡れない」と見えることはないでしょう。

しかしながら、その条件下での環境との接触経験を増やすべく、
重りを付けたまま、数時間歩き回った後に再度吊り橋の前に来ると、
これまで観察することの無かった橋の強度やたわみ、揺れなどを慎重に確認したりしながら、
今まで「渡れる」と知覚していた吊り橋を、「渡れない」と知覚するかもしれません。

元々、Bさんが見ていた「渡れない」というアフォーダンスを
Aさんもその条件下での環境との豊富な接触経験の中で知覚できるようになったのです。

つまり、アフォーダンスは誰もが利用できる可能性として環境の中に潜在しているのです。

このような知覚に関する事実からも、

どのようなタスクで動作を遂行させるか?
どのような環境下で動作を遂行させるか?
そしてどのような身体条件下で動作を遂行させるか?

という事を、運動指導者は考えなければならないのです。

故に、重要なのは「動作の種類」ではなく「動作を取り囲む条件」なのです。

動作を学ぶということは、
1つの条件下だけに有効な方法を学ぶことではありません。

環境からの様々な外乱に耐え得る動作プランを構築するためには、
多数の変動性を1つの課題にどう適応させるかが重要なのです。

つまり、動作を向上させるために必要なことは、動作そのものを精密に練習することではありません。
環境・タスク・生体などの制限・制約によって生まれる複雑性や変動性からの自己組織化を通じて、
自然に動作を向上させていくことが必要なのです。

 

【参考文献】
・The Senses Considered as Perceptual Systems  James Jerome Gibson
・新版アフォーダンス  佐々木正人