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パフォーマンストレーニングの理論と実践

Vol.6 パフォーマンスを高めるための原理原則 ー Dynamic PatternsとSelf-Organization ー

構成要素を分けてトレーニングを行うことへの疑問に関して、このような比喩があります。

「水が火を消すために不可欠な手段であることはよく知られている。
しかし、もし水を構成要素である水素と酸素に分けると、
どちらの物質も水を消すことができないばかりではなく、さらに火力を増加させる。」
(Antonio Barbosa)

この比喩は、構成要素を分解してアプローチしすぎると
本質から外れてしまう事実を例えたものです。

「筋力」「スピード」「パワー」「アジリティ」「持久力」など、
構成要素を抽出し、それぞれを評価し、それぞれを鍛えていく、
そしてスポーツパフォーマンスに良い転移が起こることを待つ、
という従来の伝統的なアプローチに、私たちは疑問を持たなければなりません。

何故なら、水を水素と酸素に分類しても、水とは同様の性質にはならないからです。

全体と構成要素の関係性を説明する上では、
「ゲシュタルト崩壊」という知覚現象が知られています。

漢字や平仮名の文字をずっと見ていると、

・何の文字か分からなくなってきた。
・意味が分からなくなってきた。
・文字がバラバラに見えてきた。

という経験はありませんか?

ゲシュタルト崩壊を起こしやすい漢字や平仮名、片仮名なども存在します。

ゲシュタルト崩壊とは、
意味を持つ全体的な枠組みが崩壊し、部分に認知の対象が向かっている状態を指します。

「部分の総和は全体とは異なる」というこの事実を私たちの運動指導に置き換えるのであれば、
各身体要素の寄せ集めではなく、意味のある1つの全体像として捉える必要がある、ということを示唆しています。

各要素の寄せ集めである、要素還元主義的アプローチか?
意味のある1つの全体像として捉える、複雑系生命システム理論か?

Dynamic System Theory(DST:ダイナミックシステム理論)が提唱されたことから、
運動制御システムの複雑化した相互作用を説明できるようになり、
そして、要素還元主義的アプローチに疑問が呈されるようになりました。

何故なら適応のプロセスは、Linear Processではなく、Emergent Processであり、
小さなノイズに対処しながら、ダイナミックかつ複雑な相互作用を起こす特性があるからです。

「筋力」も「スピード」も「パワー」も「アジリティ」も「持久力」も、
全てその状況下の”Context(文脈)”に依存します。
様々な基本的運動特性は、それぞれ独立しているわけではありません。
決断と行動は相互関係にあるプロセスなのですから、
パフォーマンスを向上するためには、「環境」と相互作用する能力が必要になってくるのです。

環境には「アフォーダンス」が存在します。
私たちは「環境が人間に与える意味とは何か?」を理解しなければならないのです。

重要なのは、「動作の種類」ではなく「動作を取り囲む条件」なのです。

環境やタスクの変動性に適応しながら、
“Fluctuation”(動作の要素が不安定で、高いエネルギーコストがかかる要素)
を用いて、
“Attractor”(動作の要素が安定していて、低いエネルギーコストで済む要素)
を掴んでいくことが必要です。

これらは、
“Control Parameter”(制御パラメータ:環境要因などの外部変数)

“Order Parameter”(秩序パラメータ:相の秩序パターンを表す変数)
という言葉としても知られています。

これらは、運動指導における最も重要なポイント、
“Self-Organization”(自己組織化)
を進めていく上で大きなキーワードになると考えられているのです。

 

【参考文献】
・Dynamic Patterns  J.A. Scott Kelso
・La Preparacion Fisica en el Futbol  Rafel Pol