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パフォーマンストレーニングの理論と実践

Vol.2 パフォーマンスを高めるための原理原則
ー 運動制御理論と運動学習理論(概論) ー

健康的に生活したい人。
スポーツパフォーマンスを向上したい人。
痛みを無くしたい人。
筋肉を発達させたい人。

全ての人に必要な共通項。
運動制御(Motor Control)。

果たして、運動制御とは何でしょうか?
一言で言うならば、体のコントロール能力です。

この運動制御が伴っていない状態で、筋力やパワーのトレーニングを行なっているのであれば、
それは、運転に慣れていないペーパードライバーがポルシェやランボルギーニに乗っているようなものです。

そして、この運動制御能力が不充分であるケースは本当に多く見受けられます。

流行りのコア(体幹)トレーニングにおいても、
「体幹の筋力を強化する」という意味でエクササイズが行われていることが沢山あるようです。

しかしながら、「安定性」と「筋力」、これらを混同してはいけません。

筋力とは力発揮に関することであって、
安定性とは運動制御に関することです。
これらは密接に関係をしているものの同じものではありません。

体を全力で固めていて、揺れている電車の中で立ち続けることができるでしょうか?
揺れている電車の中で立つために必要なのは、
体を強く固定する能力ではなく、微調整しながら安定させる能力のはずです。

「固定ではなく、安定である。」
「安定性とは微調整された制御であって、力ではない。」

という事実をまず初めに認識し、
安定性(Static Motor Control:静的運動制御)を獲得するために
適切な手順でCorrective Strategy(改善の戦略)を立てていく必要があります。

上記と相反するような表現になりますが、
様々な基本的運動特性は、それぞれ別々に存在することはできません。
最終的には、運動制御と筋力は密接に関係しており、1つのものとして扱われるべきものなのです。

運動指導者が人体の動作の仕組み、つまり運動制御理論を学習するにあたっては、

・Coordination
・Degree of Freedom Problem
・Context Conditioned Variability
・Central Control or Motor Program Theory
・Generalized Motor Program
・Schema Theory
・Dynamic System Theory
・Attractor State
・Self-Organization
・Affordance
・Motor Learning Theory

上記等に関して理解をしておくと良いでしょう。

ムーブメントとは、非常に複雑な相互作用の基に成り立っています。

従来の運動制御理論では、複雑な動作において
脳(CNS)が全てのコマンドを制御していると考えられていましたが、
それらはDOF(Degree of Freedom Problem)の観点からも変数が多すぎるため不可能であると考えられます。

急速かつ不規則な運動環境下で、結果をモニターし、フィードバック修正しながら運動をコントロールできるほど、
神経系の伝達は速くはありません。
また、瞬時にかつ膨大な制御の組み合わせを決定しなければならないのであれば、
中枢神経系の仕事量は膨大なものとなってしまうため、このような制御方法は現実的ではありません。

これらの背景を考慮すると、
「運動に先立って身体の配置を詳細に決定し、それを実行するという運動制御方法は成立しない。」
ということが理解できます。

20世紀前半にロシアの運動生理学者 Nicholai A. Bernstein によって、
この従来の運動制御理論が抱えている根源的な問題が最初に指摘されました。

人間の身体がどのような仕組みで動いているのか?
という理論を理解する上で、Bernstein問題は大変興味深いものです。

中枢制御理論か?
生態学的アプローチか?

要素還元主義的アプローチか?
複雑系生命システム理論か?

まずは、このような背景を理解した上で、
「人はどのようにして体を動かしているのか?」という学びを深めていくことをお勧めしています。

 

【参考文献】
・On Dexterity and Its Development  Nicholai A. Bernstein
・脳と身体の動的デザイン 運動・知覚の非線形力学と発達  多賀厳太郎