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パフォーマンストレーニングの理論と実践

Vol.10 パフォーマンスを高めるための原理原則
ー Conscious or Subconscious ー

「意識して練習し続けていれば、無意識にできるようになる。」
「反復練習を続けていれば、やがては自動的にできるようになる。」

スポーツ現場でよく耳にするこれらの指導は果たして本当なのでしょうか?

意識的動作を制御している脳の領域と、
無意識的動作を制御している脳の領域は異なります。

故に、複雑なスポーツスキルを意識し続けて練習しても、
それらのほとんどは無意識的にできるようにはなりません。

Conscious(意識的/顕在的)か?
Subconscious(無意識的/潜在的)か?

これらを小手先のメソッドではなく、
運動制御理論や運動学習理論という確固たる学問の原理原則に基づいて
きちんと理解しておくことが運動指導者には求められています。

まず、人体の動作には、大きく2つの制御システムがあります。

1つは、スキーマ理論などに代表される意識的な階層型制御。
もう1つは、ダイナミックシステム理論により解明された分散型制御。

前者の階層型制御は、ゆっくり処理され、
筋肉は脳のコマンドセンターに従って動作を遂行します。
動作の遂行に時間的制約がない時に最適な動作システムです。

この階層型制御は、トップダウン式(脳から体へ)で動作を組み立てています。
判断する時間がある局面においては、
このような制御方法によって人の動作はコントロールされています。

また階層型制御は、対象物を熟視し、意識的に観察するための視覚システム「中心視」に関係します。
「何」についての情報は形や動きを明確に認識するために、パルボ系-腹側皮質視覚路を介して処理され、意識下の制御に関連します。
これは、”What System”としても知られています。

“What System”は、
前頭葉で動きの選択をし、
小脳や大脳基底核で筋収縮パターンの調整をし、
体の各関節や筋肉を統合させ、動作を生成します。

後者の分散型制御は、瞬時に処理され、
身体のあらゆるレベルが脳からの指令に従うのではなく、感受することで動作を遂行します。
瞬時に複雑な動作を行わなければならない時、予測不可能な環境で適応しなければならない時に最適なシステムです。

この分散型制御は、ボトムアップ式(体から脳へ)とトップダウン式(脳から体へ)とを統合し、同時に動作を組み立てています。
ほとんどのスポーツ動作や無意識かつ瞬時に判断する日常生活動作においては、
このような制御方法によって人の動作はコントロールされています。

また分散型制御は、感覚的情報を認識するための視覚システム「周辺視」に関係します。
「どこ」についての情報は感覚的・空間的情報を認識するために、マグノ系-背側皮質視覚路を介して処理され、自動的な制御に関連します。
これは、”Where System”としても知られています。

“Where System”は、
環境との関係性を、視覚システム・前庭システム・体性感覚システムを用いて感知し、
大脳感覚野や視床・脳幹を用いて感覚を比較・選択・統合し、
皮質下レベルで姿勢を決定します。

「どのように動くか?」という身体の内部過程に注意を払う場合と、
「動いた時に周りで何が起こるか?」という身体の外部過程に注意を払う場合とでは、
重要な違いがあることは多くの研究によって示されています。

これらはインターナルフォーカス(内部焦点)と、
エクスターナルフォーカス(外部焦点)という動作習得の指導における重要なキーワードとしても認識されています。

運動は全て「意図志向性」に基づいており、筋活動についてはほとんど考慮されていません。
身体は「運動の過程」ではなく、「運動の結果」という観点を考慮します。

インターナルフォーカスは、「動作の過程」を意識させ、
エクスターナルフォーカスは、「動作の結果」を意識させています。

「行為効果仮説(Wulf&Prinz,2001;Wulf et al.,2002)」によれば、
動作は意図によって、最も良く制御されます。
注意を「運動の結果」に向け、意図を持って動作を遂行することは、自己組織化のためにも大変重要です。

このようなことから私たち指導者は、
運動指導時に、

何を意識させ、何を意識させないのか?
どのような意図を持って動作を遂行させるのか?
そして、意識的動作をどのように自動化させていくのか?

様々なことを熟慮した上で、
如何にシンプルかつ楽しいと感じられる指導ができるかどうかが問われているのです。

 

【参考文献】
・Attention and Motor Skill Learning  Gabriele Wulf
・Motor Learning & Performance  Richard A. Schmidt
・Strength Training and Coordination  Frans Bosch