Vol.9 パフォーマンスを高めるための原理原則
ー Motor Learning Theory ー
運動指導者は、Motor Learning Theory(運動学習理論)という学問を通じて、
人はどのようにして動きを学ぶのか?という原理原則を抑えておくことが必要になります。
リハビリの専門職も、
コンディショニングの専門職も、
トレーニングの専門職も、
スポーツスキル指導の専門職でも、
人はどのようにして動作を意識的に理解し、学習し、無意識的に自動化していくのか、という過程を
理解しておくことはとても重要なのです。
運動スキルを学習する過程は、以下の3段階から成り立ちます。(Fitts & Posner 3-Stage Model)
① 「認知段階(Cognitive Stage)」
② 「連合段階(Associative Stage)」
③ 「自動化段階(Autonomous Stage)」
まず、最初の段階である「認知段階(Cognitive Stage)」は、学習するべき課題を認知する段階です。
これは初めて行うその運動を、
どの程度の難易度か、自分にはできるのか、これを行う価値があるのか、どのようにしたら遂行できるか、
などを意識的・言語的に思考している段階です。
自分の動きを映像で見ても良い悪いが判断できない状態であり、
熟練者の動きを見ても良い悪いが判断できない状態でもあります。
理想的な動作イメージとの乖離が少ないため、「意外とできる」という感覚も生まれやすい段階です。
次の段階である「連合段階(Associative Stage)」は、運動スキルを磨く段階です。
これは学習者の意識が、課題の内容から自らの運動遂行へ変わっている段階です。
この段階では、内在的フィードバックに基づいた潜在学習が重要になってきます。
自分と上級者の違いを認識し始めたため、良い動作イメージと実際の自身の動きが乖離してきます。
良い動作イメージが形成されてきたため、以前より下手になってしまったような感覚に陥るのもこの段階です。
最後の段階である「自動化段階(Autonomous Stage)」は、意識せずに運動スキルを再現する段階です。
これは運動スキルを実際の生活やスポーツにおいて無意識かつ自動的に適用できる状態であり、
何も考えずに複数の課題を同時に処理できる段階です。
車の運転に例えるなら、
自動車教習所での練習では、運転に一生懸命で会話しながらの運転は困難だったのに、
免許を取得してからは、自動車を運転しながら助手席の人と話しつつ、カーナビを操作することもできるようになっている、
などが挙げられます。
このように運動スキルの学習には段階があり、指導者は学習者の段階に応じた指導を行う必要があるのです。
意識的動作を制御している脳の領域と、
無意識的動作を制御している脳の領域は異なります。
故に、意識し続けて練習したところで、
それは無意識的にできるようにはなりません。
つまり、闇雲に意識をし続けて練習していても、
その動きが試合の際に無意識的・自動的に出現することはない、ということなのです。
私たち指導者が、運動指導の際に考えるべきことは下記のように多岐に渡ります。
認知段階か? 連合段階か? 自動化段階か?
どのような変動性か?
意識的制御なのか? 無意識的制御なのか?
顕在学習か? 潜在学習か?
ブロック練習か? ランダム練習か?
インターナルフォーカスか? エクスターナルフォーカスか?
内在的フィードバックか? 外在的フィードバックか?
結果の知識か? パフォーマンスの知識か?
モチベーションはどのような状態か?
運動学習理論に基づく上記のような、
学習段階、トレーニングデザイン、インストラクション、フィードバック方法、モチベーションの在り方などを認識しながら、
選手・患者・クライアントへの指導を行う事が、どのような運動の専門職であっても求められているのです。
どのような専門職であっても、
どのようなスポーツの指導者であっても、
「人はどのようにして動作を学ぶのか?」という根源的な学問をまず理解しておくことが大変重要なのです。
【参考文献】
・Motor Learning & Performance Richard A. Schmidt
・Attention and Motor Skill Learning Gabriele Wulf
・The Language of Coaching Nick Winkelman