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パフォーマンストレーニングの理論と実践

Vol.5 パフォーマンスを高めるための原理原則 ー Linear ProcessとEmergent Process ー

科学教育において、プロセスやパターンの違いを理解するのに苦労することがある、という報告があります。

これは、Linear Process(直線的プロセス)とEmergent Process(創発的プロセス)を混同して理解していることが
原因として挙げられます。

「パフォーマンス(人体の性能・遂行能力)」を向上させる専門職において、これらの正しい理解は大変重要です。

私たちは今、パラダイム転換を図らなければならない時代の転換期に生きています。

要素還元主義的アプローチから、複雑系生命システムへ。
中枢制御から生態学的知覚システムへ。
意識された階層型制御から、自動化された分散型制御へ。

これらのシステムは、様々な側面で複雑な相互作用を起こすという異なるダイナミクスの性質があります。
このようなプロセスは、Emergent Process(創発的プロセス)または、Chaos Process(カオスプロセス)とも呼ばれます。

Linear Process(直線的プロセス)は、しっかりと組織され決まった順序で起こります。
多くの場合、単一のスタート地点と単一の制御、明確な終了地点を持っています。

一方、Emergent Process(創発的プロセス)は、複雑で無秩序的なものになります。
明確な開始点と終了点を持たずに進行し、関わる部分は独立的に働き、制御するものも存在しません。

例えば、消化・月の満ち欠け・エンジンの起動・外傷の治癒、などは、Linear Processです。
片や、交通渋滞・ネズミの大発生・都市の発展・恋愛、などは、Emergent Processです。

トレーニング負荷に対する生理学的反応は、
1つの中枢制御された刺激が伝えられて起こるのではなく、
最終的な適応を形作る個々の大小の影響が全身に渡って引き起こされることによるものです。

これは適応のプロセスが、Linear Processではない事を示しています。

これは、トレーニングの科学においてのみのことではありません。

痛みの科学の研究で、世界をリードしていることでも知られるDavid Butlerは、
下記のように述べています。

「多くの患者は、痛みをLinear Processだと考えています。
痛みのシグナルが身体の中で見つかり、電話のメッセージのように電線を通って脳に伝えられるように。
しかし、痛みはEmergent Processです。
患者にLinear ProcessとEmergent Processの違いを教えることが、
患者が痛みというものが脳に信号が送られてくるという単純なものでなく、
人生の全ての要素の中から創発的に生まれるものだということを理解する手助けになるのです。」

また、彼らは、

「痛みは我々を取り巻く環境と「Context:文脈」に大きく左右される。」
(どこにいるのか、誰といるのか、思考と信念、身体の生物学的要因、それに加えて我々の周りの全て。)

とも述べており、ここでも環境及び、Contextが重要であることを再認識させられます。

トレーニングで成果を出す専門職も、痛みの解消に努める専門職も、
プロセスやパターンの違いを正しく理解する、
つまり、テクニックの前に原理原則を正しく理解することが重要なのです。

 

【参考文献】
・Explain Pain  David Butler
・Strength Training and Coordination  Frans Bosch